試し読み3「額賀と額賀の同居人」

*これは3/22発売予定『拝啓、本が売れません』(額賀澪/KKベストセラーズ)の試し読みです。

「死に物狂いでデビューしたとして、編集と上手く行かなかったらどうしようと、夜な夜な不安になることがあります」

私の同居人であり戦友である黒子ちゃんは、たまにこんなことを言う。黒子ちゃんはまだ作家デビューはしていないけれど、大手出版社が主催するライトノベルの新人賞で結構いいところまで行ったことがある。あと一歩、あと一歩なのだ。

「そもそも編集者とは、どういう人種の人達なんですか?」

私達は都内でルームシェアをして暮らしている。駅から徒歩十分。築二十年越えの木造アパート。家の目の前を線路が通っていて、特急が通過するたびに家が揺れる。震度三くらい揺れる。一階は大家の住居で、日曜の朝は仮面ライダーを見てはしゃぐ大家の孫の声で目覚める。家賃は六万円だから、折半して一人三万円。

ワンルームの部屋に二人で暮らしているので、本棚二つ、執筆用の机二つ、タンス二つで部屋はいっぱいいっぱい。お風呂は正方形で、体育座りをしないと入れない。洗面台がないから毎朝台所の水道で顔を洗い、歯を磨いている。

その気になればもう少し広く、駅から近いところに住めるかもしれない。しかしそこはゆとり世代。どんなに本が売れたって、明日どうなるかわからない。調子にのるといつか痛い目を見ると教えられながら、実例を目の当たりにしながら、これまで生きてきたのだから。

さて、そんな狭いアパートの一室で、私達は日々原稿と戦っている。

「出版社に勤める人というのは、競争率の激しい中を勝ち抜いて入社するわけでしょう? やはり真面目な人が多いのでしょうか? それともリア充が多いのでしょうか?」
「いかにも真面目な人にも会ったことがないし、ドン引きするほどのリア充にも遭遇したことはないなあ」

某社の編集者曰く、「飲み会の幹事をやらせたら小学館が最強!」らしいけれど。

「黒子ちゃんでも、編集ってどんな人か気になる?」
「当然でしょう。リア充編集が出てきても絶対に話が合わないし、ギャルの編集が出てきたら最後、虐められるに決まってる!」

ちなみに、黒子ちゃんは決して作家志望のプータローではない。本業はフリーのゲームシナリオライターだ。自分の書いた物語をゲームという製品にして、多くの人を楽しませる仕事をしている。でも、やっぱり、自分の小説を世に送り出したいらしい。

 

(『拝啓、本が売れません』 一章「平成生まれのゆとり作家と、編集者の関係」より一部抜粋)