*これは3/20発売予定『拝啓、本が売れません』(額賀澪/KKベストセラーズ)の試し読みです。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社――通称・CCCの本社は渋谷にある。二〇一七年の年末の賑やかな渋谷に降り立った私とワタナベ氏は、快晴の冬空にそびえる高層ビルをエレベーターでひたすら上へ上へと昇っていった。
「こんな日にCCCに取材とは、何か運命めいたものを感じますね」
エレベーターの中でワタナベ氏がぽつりとそんなことを呟いた。
この取材の前日に、CCCは主婦の友社を子会社化したのだ。
ワタナベ氏はこう続けた。
「この出版不況で出版社が倒産したり買収されたりなんてことは珍しいことじゃないし、きっとこれからもたくさんあることなんでしょうけど……出版社を買収するのが出版社ではないっていうのが、業界のやばさを感じますよね」
「出版社が出版社を買収する余裕なんてなく、他業界の元気な会社が買収するわけですからね」
辛気くさい話をしながらエレベーターを降りると、目の前に鮮やかな水色の壁がそびえていた。「CCC」の文字がそこに鎮座している。床は綺麗な木目調で、窓は大きくて空が近くて渋谷の街が見渡せて、壁は真っ白で、天井はお洒落に配管剥き出しで、紙製の不思議なオブジェが置かれていて、本棚には綺麗な本が並んでいる。ワタナベ氏曰く「お洒落で教養が高そうな本!」が。
広々としたワークスペースには仕切りがなく、形も色も違うテーブルと椅子が並んでいた。そして紙がない。ゲラも資料の本も置いてない。行き交う人々はみんな一人一つノートパソコンやタブレットを持っていた。
「オフィスというのは、ゲラの束が山になって一日一回雪崩が起きるものなんだけどなあ」
ワタナベ氏のぼやきに、「きっと他のフロアに行ったらゲラが山積みですよ(笑)」と適当なことを言った。うん、ここはあれだ……私達が普段いる出版業界とは違う世界だ。
(『拝啓、本が売れません』 五章「映像プロデューサーと、野望へのボーダーライン」より一部抜粋)
初めまして。 「拝啓、本が売れません」購入しました。拝読しました!!「屋上のウインドノーツ」単行本、文庫、タスキメシ、さよならクリームソーダ、注文しちゃいました!!!ワナにはまった気持ちです(笑)
書くことに対しての真摯な姿勢感激いたしました。また普段我々が拝見できない編集さんやデザイナーさん、書店員さん、その他もろもろ、多くの方の想いが伝わってまいりました。
ありがとうございました。
奈良近鉄沿線におりますが、数日前駅構内、橿原・八木にあった若草書店さん完全閉店。地方の本屋状況は厳しいです。御奮闘拝見しなぐさめられました。
『拝啓、本が売れません』ご購入ありがとうございます。楽しんでいただけたようで、そして登場した自著にも興味を持っていただけたようでとても嬉しいです!
若草書店さんは私もとてもお世話になった書店さんです。閉店、とても悲しいです。出版業界の片隅で微力ながら頑張ります。